Research
Study on plant chemical defense system controlled by volatiles and its use for ideveloping food flavor (Ohnishi group)
植物は根を張った場所から移動することは難しく,乾燥や高温などでの非生物学的ストレスや病害虫や病原菌による生物的ストレスなどの環境ストレスから逃れることはできません。そのため,植物は生育環境に順応する様々な術を身につけ,環境ストレスと日々戦っています。植物が生み出す化合物を利用して自らの身を守る化学防御もその一つ仕組みです。植物は,20万種以上とも言われる二次代謝産物 (specialized metabolism) を生成します。特に植物が放散する揮発性化合物は,揮発性が高いため空気中に放散されやすく,空間的な広がりに優れており,食害昆虫への忌避活性,病原菌に対する抗菌活性,また受粉媒介者を誘引するなどの植物の生存競争を有利にする働きがあります。
多くの植物は,揮発性化合物に「糖」を結合させ,香気前駆配糖体 (glycosidically bounds volatailes; GBVs) として貯蔵します (図1)。GBVsは,揮発性化合物より水溶性や沸点が高いため,植物中での安定的な貯蔵に適しており,植物が病害虫や病原菌にからの攻撃を受けた際,GBVsは植物由来の糖加水分解酵素によって,容易に揮発性化合物を遊離することができます。このように,GBVsは植物の化学防御システムの一端を担っています。
ャ,ブドウ,サツマイモ,イチゴ,キウィフルーツ,ソバなどまた興味深いことに,GBVsは我々の生活を豊かにしている化合物でもあります。例えば,ワインや芋焼酎の香りはGBVsに由来しています。醸造工程において,ブドウやサツマイモに含まれるGBVsは加水分解され,「香り」が遊離することで芳醇なワインや芋焼酎が製造されます。また紅茶や烏龍茶の製茶工程では,チャ自身の糖加水分解酵素によって糖加水分解されて「香り」が生み出されます。このことは,GBVsは農産物品質の指標である味や香りの“源”となる化合物であることを意味しています。このように植物の環境ストレス耐性の向上や食品開発のターゲット化合物となり得る。